Ranun’s Library

書物の森で溺れかける

カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロの書評からたどる Uchi 論がおもしろい『水商売からの眺め : 日本人の生態観察 』ジョン・デイビッド・モーリー著

「うち」という言葉は、外国人からすると、たいそう奇妙であるらしい。関西では、おもに女性が「私」の代わりに用いたりする。他にも、うちの子に限って、うちの人、うちの会社、うちらの世代、、、など、老若男女、津々浦々、よく耳にする言葉ではないだろ…

『浮世の画家』思案橋でためらってみる

長崎の旅、後半は、 長崎市随一の歓楽街「思案橋」。 ここは、カズオ・イシグロ著『浮世の画家』に登場する「ためらい橋」(the Bridge of Hesitation)のモデルとされている場所です。 残念ながら、現在は川が埋め立てられていて、橋ではなく、交差点名や、…

『遠い山並みの光』を辿る旅

いわずとしれた、カズオ・イシグロの出身地、長崎を旅してきました。 市内の、実に7割の建物が斜面に建っていると聞いて驚いてしまいましたが、長崎港を覆いつくすような山並みの景色は、昼も夜も、独特の風情がありました~。 蒸し暑くて、今にも雨が降り…

『うき世と浮世絵』で『浮世の画家』を想う

内藤正人著『うき世と浮世絵』は、「浮き世」ということばの語源や、「浮世絵」の生誕と歴史がわかる学術書です。江戸時代に産声を上げた浮世絵は、時代とともに進化を遂げ、近年のサブカルチャーや、外国文化に影響を与えてきました。その数は意外と多いこ…

大江健三郎とカズオ・イシグロの対談(1989)

もう2年ほど前になりますが、このブログで「カズオ・イシグロ × 大江健三郎 対談レポート(前篇~後篇)」と題した記事を、三回に分けて書きました。 1989年に行われた対談の、拙訳と感想が主でしたが、現在全て消去しています。すでに日本語訳が雑誌に掲載…

Waiting for a ghost? ”The Gourmet ”  Kazuo Ishiguro

カズオ・イシグロ脚本の『The Gourmet 』(ザ・グルメ)は、1987年にイギリスで放送されたテレビドラマ。シカゴ国際映画祭の「最優秀短編映画賞」を受賞した作品です。 完全版かどうかはわかりませんが、YouTubeで見ることができます。 www.youtube.com 脚本…

映画『生きる・LIVING』を鑑賞

カズオ・イシグロ脚本の映画『生きる・LIVING』を観ました。 この映画は言わずと知れた、黒澤明監督の日本映画『生きる』(1952) をリメイクされたものです。 さらに言うと、黒澤版『生きる』は、ロシアの文豪トルスロイ著『イワン・イリッチの死』Смерть Ива…

映画「生きる LIVING」公開直前 ! カズオ・イシグロ特集 "kotoba "2023春号

カズオ・イシグロが脚本を手掛けた映画『生きる LIVING』が、3月31日、やっと日本でも公開されます! もう一年以上待ったでしょうか、 とても楽しみです! 雑誌『kotoba』最新号ではカズオ・イシグロ特集が組まれ、映画だけではなく、これまでの作品に関する…

『奇妙な折々の悲しみ 』"A Strange and Sometimes Sadness" Kazuo Ishiguro

A Strange and Sometimes Sadness (1981)は、 ”Introduction 7 : stories by new writers” の中に収録された、カズオ・イシグロ、デビュー前の短編のひとつ。 イースト・アングリア大学時代の習作で『遠い山なみの光』(A Pale View of Hills, 1984)の試作…

"Waiting for J"『Jを待ちながら』 Kazuo Ishiguro

Waiting for J『Jを待ちながら』(1981 ) は、 カズオ・イシグロ、デビュー前の短編小説です。 A Strange and Sometimes Sadness『奇妙な折々の悲しみ』と Getting Poisoned『毒を盛られて』とともに、 Introduction 7 : stories by new writers , (1981) に…

映画「上海の伯爵夫人」カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ脚本の映画『上海の伯爵夫人』 ( 2005 ) を観ました。 原題:The White Countess 監督:ジェームズ・アイヴォリー 『日の名残り』(1993) に続き、ジェームズ・アイヴォリー監督の2作目。 美しい映像と、凛とした佇まいの俳優陣は『日の名残…

ナイン・インタビューズ『柴田元幸と9人の作家たち』~カズオ・イシグロ~

ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち作者:ポール・オースター,村上春樹,カズオ・イシグロ,リチャード・パワーズ,レベッカ・ブラウン,スチュアート・ダイベック,シリ・ハストヴェット,アート・スピーゲルマン,T・R・ピアソンアルクAmazon本書は翻…

『忘れられた巨人』”The Buried Giant” カズオ・イシグロ

『忘れられた巨人』(The Buried Giant, 2015) は、カズオ・イシグロ、7作目の長編小説です。これまでの作品と違い、三人称の語りになっているところに新鮮味を感じます。なかには登場人物が前面に出てきて、主観的に語る章もあります。さまざまな視点から物…

悪夢は毒へ『セメントガーデン』イアン・マキューアン 

イアン・マキューアンの長編デビュー作、 『セメントガーデン』を読了。 (原題:The Cement Garden , Ian MacEwan , 1979 )セメント・ガーデン (Hayakawa novels)作者:イアン マキューアン早川書房AmazonThe Cement Garden (Vintage International)作者:McE…

『わたしを離さないで』"Never Let Me Go"   カズオ・イシグロ

『わたしを離さないで』Never Let Me Go (2005) はカズオ・イシグロの6番目の長編小説です。 2010年には映画Never Let Me Goが公開され、 日本でも2016年にドラマ『わたしを離さないで』が放映されました。 わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)作者:カズ…

『日の名残り』”The Remains of the Day”   カズオ・イシグロ

『日の名残り』(The Remains of the Day, 1989 )は、カズオ・イシグロの三作目の長編小説です。1989年には、イギリスで最も権威のあるブッカー賞を受賞した話題作。1993年に映画化されてからも、長く愛され続けています。 日の名残り ノーベル賞記念版作者:…

カズオ・イシグロ ノーベル賞記念講演『特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー』

カズオ・イシグロの『特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー』(2018) は、2017年ノーベル賞受賞後の、記念講演を書籍化されたものです。特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー ノーベル文学賞受賞記念講演 (早川書房)作者:カズ…

『浮世の画家』"An Artist of the Floating World" カズオ・イシグロ

『浮世の画家』(An Artist of the Floating World, 1986 )は、カズオ・イシグロの2作目の長編小説。デビュー作『遠い山なみの光』に続き、戦後の日本を舞台にしています。1986年、ウィットブレッド賞を受賞。 浮世の画家〔新版〕 (ハヤカワepi文庫)作者:カ…

『戦争のすんだ夏』"The Summer after the War " カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ著『戦争のすんだ夏』(The Summer after the War,1983 )は、雑誌『Esquire 日本語版』1990年12月(36号) に掲載された短編小説です。 3年後に出版される『浮世の画家』の原型といわれています。 原文は、A Family Supperと共に収録されてい…

毒を盛られて "Getting Poisoned" Kazuo Ishiguro    

カズオ・イシグロの初期短編のうちの一つ Getting Poisoned (1981) 『中毒になる』あるいは『毒がまわる』でしょうか。Introduction 7 : stories by new writers,1981 に含まれています。和訳は今のところありません。Introduction: No. 7: Stories by New W…

『遠い山なみの光』”A Pale View of Hills“   カズオ・イシグロ

『遠い山なみの光』(A Pale View of Hills,1982)は、 カズオ・イシグロの長編デビュー作です。 1982年、王立文学協会ウィニフレッド・ホールトビー賞を受賞しました。 当初『女たちの遠い夏』(1984 ) というタイトルだったことはあまり知られていませんが、…

『ある家族の夕餉』"A Family Supper" カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ著、A Family Supper『ある家族の夕餉』あるいは『夕餉』は、雑誌『Quarto』(1980) に収録された短編小説です。デビュー作『遠い山なみの光』(1982) の約1年前になります。 のちに雑誌『Esquire』(1990) に再録され、こちらはネット上で読…

『わたしたちが孤児だったころ』"When We Were Orphans" カズオ・イシグロ

『わたしたちが孤児だったころ』 (When We Were Orphans ,2000) は、カズオ・イシグロの長編小説第5作目で、 ブッカー賞の最終候補に選ばれた作品。わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)作者:カズオ イシグロ早川書房AmazonWhen We Were Orphans作…

『クララとお日さま』”Klara and the Sun”   カズオ・イシグロ

『クララとお日さま』Klara and the Sun は、カズオ・イシグロが2017年にノーベル賞を受賞したあと、初となる長編小説です。[asin:B08VNF8481:detail]Klara and the Sun: The Times and Sunday Times Book of the Year (English Edition)作者:Ishiguro, Kazu…

『チェリスト』Cellists カズオ・イシグロ

『夜想曲集 』(2009) Nocturnes : five stories of music and nightfall 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語の、最後のおはなし 「チェリスト」(Cellists)夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語作者:カズオ・イシグロ早川書房Amazon 最後はハンガリー人であ…

『夜想曲』Nocturne カズオ・イシグロ

『夜想曲集 : 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』(2009) Nocturnes : five stories of music and nightfall 音楽にまつわる5つの短編集の中の、 『夜想曲』Nocturne夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)作者:カズオ イシグロ早川書房A…

『モールバンヒルズ』Malvern Hills カズオ・イシグロ

『夜想曲集 : 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』(2009) Nocturnes : five stories of music and nightfall 音楽にまつわる短編集の3つめのおはなし。 『モールバンヒルズ』(Malvern Hills)夜想曲集 (ハヤカワepi文庫)作者:カズオ・イシグロ,土屋 政雄早川書…

『降っても晴れても』Come Rain or Come Shine カズオ・イシグロ

『夜想曲集 : 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』(2009) Nocturnes : five stories of music and nightfall 音楽にまつわる短編集の2番目に登場するドタバタ劇。 『降っても晴れても』(Come Rain or Come Shine)夜想曲集 (ハヤカワepi文庫)作者:カズオ・イシ…

『老歌手』Crooner カズオ・イシグロ

『夜想曲集 : 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』Nocturnes : five stories of music and nightfall(2009) 、音楽にまつわるの大人の短編集。 夜想曲集 (ハヤカワepi文庫)作者:カズオ・イシグロ,土屋 政雄早川書房Amazon 5つある短編の中でも、最も切なく哀…

『日の暮れた村』"A Village After Dark"    カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ著『日の暮れた村』A Village After Dark は『充たされざる者』(1995) の下準備としてかかれた短編小説です。世に出すつもりはなかったというが、どういうわけか雑誌 ”The New Yorker” ( 2001.5 ) に掲載されたという謎の裏話があります。 …