Ranun’s Library

書物の森で溺れかける

『降っても晴れても』Come Rain or Come Shine カズオ・イシグロ

夜想曲集 : 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』(2009)
Nocturnes : five stories of music and nightfall
音楽にまつわる短編集の2番目に登場するドタバタ劇。
『降っても晴れても』(Come Rain or Come Shine)

単独でも出版されています。


まるで、アメリカのコメディードラマを観ているようなドタバタへ劇へと展開するこのお話、著者は本当にカズオ・イシグロさんですか?と疑ってしまうのですが、最後に穏やかな余韻が残るところはさすがでございます。


この話、クラシック音楽で例えてみるなら、ブラームスの『ハンガリー舞曲 第五番』が浮かんできます。
静と動のリズムが、登場人物の感情の起伏(突飛な行動をしたかと思うと、ふと我に返り落ち込んだり)によくマッチするような気がして、この曲にのせて読んでみたら、、、、もちろん落ちつくところではありません。


ということで、タイトルどおりの『降っても晴れても』"Come Rain or Come Shine"という、レイ・チャールズの曲を聴いてみました。
ロマンティックな歌詞にしっとりしたジャズバラード、これこそがBGMではないかと思ってみたのですが、、、
やはりなにかが違う。
なぜならこのお話が、ドタバタしてるからです。


語り手レイモンドは、47歳。スペインで、のらりくらりと英語講師をしている。
大学で知り合った友人、チャーリーとエミリ夫婦が住むロンドンの家に久しぶり訪れると、チャーリーから無茶な頼みごとをされる。
それは2~3日の出張中、冷め切った夫婦間をとりもつために、エミリと一緒に過ごしてほしいというもの。


その目的は「時代に置き去りにされた抜け殻」のようなレイ(レイモンド)と、自分を比較し、自分を優位に立たせるため。帰宅したときには、やっぱりあなたが一番よ、と言ってもらいたいのだ。友人を利用して、このような浅はかな計画を本気で懇願するところが面白い。


しぶしぶ引き受けたレイは、エミリの日記に自分の悪口が書かれているのを発見する。
これに腹を立て、日記帳をしわくちゃにしてしまう。我に返ったレイはチャーリーに電話でアドバイスをもらい突飛な行動へ。
エミリが帰宅するまで、近所の犬が日記帳を荒らしたと見せかけるために、部屋中をめちゃくちゃにする。おまけに犬の匂いをつくるために、ブーツと香辛料を鍋で煮るという始末。


「気は確かか、チャーリー?」


と問いかけながらも、開き直ったレイの行動は焦りと高揚でますます激化するが、一方で、荒らし方が足りないと、四つん這いになって犬の視点で考え直す冷静さも垣間見られる。日本人にはない発想というか、


気は確かですか、イシグロさん?


そしてついにエミリが帰宅。
レイの奇行ぶりに激怒すると思いきや、意外とあっさり受け入れられ、なだめられる。
疲れているのね、と音楽をかけ、ワインをすすめ、落ち着かせる。
2人は昔、音楽を語り合った仲だ。
サラ・ボーンの「パリの四月」という官能的な曲を聴きながら、踊り、友情を確かめ合う。
8分間という曲の間の穏やかな時間。
エミリは夫チャーリーとの関係も見直すべきだと思うようになる。


え、そういう展開?
チャーリーの作戦は、成功したということ?


エンディングの曲は、
ここでやっと、あのしっとりした
"Come Rain or Come Shine"が流れてきそう。


夫婦仲が戻ったというわけで、
お疲れ様のレイでした。
音楽と友情の絆は絶大だった。

2021.3.27 記
2022.7.31 更新


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