J.L.ボルヘスの「砂の本」を読了。
(集英社 , 1987, 篠田一士訳 (原タイトルEl libro de arena 1975)
同じものがこちらの最初の章にあります。
集英社ギャラリー「世界の文学」ラテンアメリカ(集英社 , 1990)
ボルヘスの数多の短編のなかで「記憶の人・フネス」→「アレフ」→「砂の本」と連ねて読みました。この三作品には同じテーマが潜んでいて、ボルヘス曰く「同じ主題の変奏」であります。
厳密に言うと「同じ主題の変奏」はまだ他にもあるそうですが、それはこれからのお楽しみにしようと思います。
「砂の本は」ほんの9ページほどの短いお話。
オークニー諸島から来たスカンジナビア人が、突如主人公(ボルヘス?)の家(アルゼンチン)にやってきて、謎の神聖な本を半ば脅迫的に売りつけます。
その本が「砂の本」なわけですが、、、、。
摩訶不思議な「砂の本」にたちまち魅せられた主人公は、先代からの家宝である聖書と物々交換にこじつけます。
彼は宝物となった「砂の本」を守るために、外出もやめ、友人関係も断ち、不眠症になっていきます。徐々に宝物が怪物に見え、怯え、挙句の果てに図書館の地下に隠す(捨てる)という始末。その後も怯えながら暮らしていくのでしょうか。おそらく件のスカンジナビア人も怯え続けているのでしょう。
最初は素晴らしく貴重と思えたものが、後に恐ろしいものになるというアイロニックな点が「フネスのもつ記憶」「アレフ」と共通しています。
欲望のまま、そのものを所有したものは、結果そのものに殺されてしまうのです。まるで魂をもった恐ろしい生き物のようです。救いの手はなく、ただただ虚しい。
ところでボルヘスが、「砂の本」を捨てる場所に図書館を選んだ理由は、過去に図書館で勤務していたこともひとつですが、次の言葉が根源となったのです。
一枚の葉をかくすに最上の場所は森である
面白いですね。
参考にした書籍