Ranun’s Library

書物の森で溺れかける

悔恨と郷愁による再起の物語『トーニオ・クレーガー』トーマス・マン

トーマス・マンの『トーニオ・クレーガー』(原タイトル:Tonio Kröger , 1903 )を読みました。 トーニオ・クレーガー 他一篇 (河出文庫)作者:トーマス・マン河出書房新社Amazon(河出文庫・平野 卿子訳 , 2011 ) 本書はトーマス・マンの代表的な青春小説で…

『ガウェイン卿の物語』ニール・フィリップ著 

映画『グリーン・ナイト』の字幕監修をされた岡本広毅先生の翻訳『ガウェイン卿の物語』~アーサー王円卓騎士の回想~ (2022) を読みました。(原タイトル:The Tale of Sir Gawain / Neil Philip , 1995 ) 『グリーン・ナイト』のお話が第四章に収録されてい…

ゴンドの樹の神話   ”The Night Life of TREES ” ~夜の木~

インドはゴンド族の、木にまつわる神話をご紹介。 この圧倒的な存在感を放つ大型絵本は、なんと一冊一冊が手作りなのです。 驚くほど美しい発色と、手にすっと馴染みむ温かい感触。 部屋にそっと立てかけておけば、絵画をみるように、ずっと眺めていたくなり…

奇妙な創造物の小冊子『幻獣辞典』J.L.ボルヘス

ボルヘスの『幻獣辞典』を読みました。幻獣辞典作者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス晶文社Amazon幻獣辞典 (河出文庫)作者:ホルヘ・ルイス ボルヘス河出書房新社Amazon 原タイトル : El libro de los seres imaginarios El libro de los seres imaginarios/ The Bo…

『インドへの道』E.M.フォースター

『インドへの道』は、インドのチャンドラポアという架空の村を舞台に、複雑な人間関係のおりなす長編小説。E.M.フォースターの長編小説6作品のうち5作目にあたり、『眺めのいい部屋』『ハワーズ・エンド』に続く名作である。インドへの道 (ちくま文庫)作者…

『アトラス : 迷宮のボルヘス』 J.L.ボルヘス

ボルヘス晩年期の世界旅行記『アトラス』。アトラス―迷宮のボルヘス (^Etre・エートル叢書)作者:ホルヘ・ルイス ボルヘス現代思潮新社Amazon原タイトル:Atlas , 1983 本書は実に不思議である。 まさに副タイトルのごとく、迷宮の旅へのいざない。ページをめ…

城壁と書物『続審問』J.L.ボルヘス

ボルヘスは、書物と図書館をこよなく愛した人である。 そしてまたユニークな一面も持ち合わせていた方だと私は思う。 エッセイ集『続審問』(Otras inquisiciones 1937-1952) でも、そのことが節々にうかがえる。38タイトルから成るこの評論集は、おもに文学…

『シエラレオネの真実 : 父の物語、私の物語 』アミナッタ・フォルナ

秋の夜な夜な、この本を読んでいると、 コオロギの風情ある鳴き声が、 いつしか悲痛な叫びに変化していくような不思議な感覚をおぼえました。 アミナッタ・フォルナのノンフィクション。シエラレオネの真実――父の物語、私の物語 (亜紀書房翻訳ノンフィクショ…

良いことも、悪いことも、覚えておきたい『The Hired Man』Aminatta Forna

アミナッタ・フォルナの3冊目の小説『The Hired Man』(2013) を読了。 この作品との出会いは、以前読んだ『ユリイカ:カズオイシグロの世界』 (2017) の中にありました。本作で描かれる、個人の友愛と、民族間に潜む集団的記憶が、カズオ・イシグロの『忘れ…

トールキンの寓話『ニグルの木の葉』Leaf by Niggle

J.R.R. トールキンの『ニグルの木の葉』(Leaf by Niggle , 1945) は、 大人のおとぎ話のような、とても深いおはなしです。 あらすじ 二グルは無名の絵かきだった。 親切心が過ぎて、頼まれごとを断れない。 いつか長い旅に出なければならないのに、 描きかけ…

『司書:宝番か餌番か』ゴットフリート・ロスト

人類最古の職業といわれる「司書」。 この職業に特化した書籍で、これほど機知に富んだものを私は他に知らない。 とにかくとても面白い!! 司書―宝番か餌番か作者:ゴットフリート ロスト白水社Amazon 司書という仕事は、誤解されやすいし、理解されにくい。…

映画「上海の伯爵夫人」カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ脚本の映画『上海の伯爵夫人』 ( 2005 ) を観ました。 原題:The White Countess 監督:ジェームズ・アイヴォリー 『日の名残り』(1993) に続き、ジェームズ・アイヴォリー監督の2作目。 美しい映像と、凛とした佇まいの俳優陣は『日の名残…

ジョージ・エリオット、ただひとつの歴史小説『ロモラ』

世界史にうとい私は、歴史小説ときくと、つい身構えてしまいます。 が、エリオット渾身の大作、これを読まずして、現在進行中である私の「ジョージ・エリオットブーム」の幕は下ろされません!ということで、意を決して飛び込んでみました。 舞台は15世紀イ…

『サイラス・マーナー』ジョージ・エリオット

ジョージ・エリオット『サイラス・マーナー』を読了。サイラス・マーナー (光文社古典新訳文庫)作者:ジョージ・エリオット光文社Amazon 原タイトルSilas Marner, 1861 Silas Marner(classics illustrated) , 2022 の表紙の絵がとても素敵です。 ジョージ・エ…

『ダニエル・デロンダ』ジョージ・エリオット

世の中には避けがたい不運というものがあって、 一方の得がもう一方の損である、、、、、 こういうことは出来るだけ少なくしたい。 こういうことを募らせておもしろがることがないように、、、 主人公ダニエル・デロンダが、ヒロインのグエンドレンに向けた…

『ミドルマーチ 』ジョージ・エリオット

ジョージ・エリオット作『ミドルマーチ 』。 (廣野由美子訳:光文社 , 2019 1~4巻) 原タイトル Middlemarch, A Study of Provincial Life, 1871 ミドルマーチ1 (光文社古典新訳文庫)作者:ジョージ・エリオット光文社AmazonMiddlemarch (Everyman's Libra…

ナイン・インタビューズ『柴田元幸と9人の作家たち』~カズオ・イシグロ~

ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち作者:ポール・オースター,村上春樹,カズオ・イシグロ,リチャード・パワーズ,レベッカ・ブラウン,スチュアート・ダイベック,シリ・ハストヴェット,アート・スピーゲルマン,T・R・ピアソンアルクAmazon本書は翻…

『忘れられた巨人』”The Buried Giant” カズオ・イシグロ

『忘れられた巨人』(The Buried Giant, 2015) は、カズオ・イシグロ、7作目の長編小説です。これまでの作品と違い、三人称の語りになっているところに新鮮味を感じます。なかには登場人物が前面に出てきて、主観的に語る章もあります。さまざまな視点から物…

悪夢は毒へ『セメントガーデン』イアン・マキューアン 

イアン・マキューアンの長編デビュー作、 『セメントガーデン』を読了。 (原題:The Cement Garden , Ian MacEwan , 1979 )セメント・ガーデン (Hayakawa novels)作者:イアン マキューアン早川書房AmazonThe Cement Garden (Vintage International)作者:McE…

「砂の本」J.L.ボルヘス 

J.L.ボルヘスの「砂の本」を読了。 (集英社 , 1987, 篠田一士訳 (原タイトルEl libro de arena 1975)砂の本 (現代の世界文学)作者:ボルヘス,ホルヘ・ルイス・ボルヘス集英社Amazon 同じものがこちらの最初の章にあります。 集英社ギャラリー「世界の文学」…

ボルヘスの愛したベアトリス「アレフ」

J.L.ボルヘスの短編「アレフ」を読みました。 短く簡潔な文章で、幻想的な世界を描くという作風で知られているボルヘス。 私にとっては、どの作品も決して簡潔な文章とは思えず、何度か読み返してなんとか理解できるほどのものです。 文章全体ではやや難解さ…

「記憶の人・フネス」J.L.ボルヘス 

わたしは彼をおぼえている(わたしはこの霊的な動詞をつかう権利をほとんど持ち合わせていない。この世でただひとりだけ、その権利に値する男がいたが、彼は死んでしまった)、わたしは彼をおぼえている。 から始まるこのお話、ただごとではなさそう。 その…

『わたしを離さないで』"Never Let Me Go" カズオ・イシグロ

『わたしを離さないで』Never Let Me Go (2005) はカズオ・イシグロの6番目の長編小説です。 2010年には映画Never Let Me Goが公開され、 日本でも2016年にドラマ『わたしを離さないで』が放映されました。 わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)作者:カズ…

『日の名残り』”The Remains of the Day” カズオ・イシグロ

『日の名残り』(The Remains of the Day, 1989 )は、カズオ・イシグロの三作目の長編小説です。1989年には、イギリスで最も権威のあるブッカー賞を受賞した話題作。1993年に映画化されてからも、長く愛され続けています。 日の名残り ノーベル賞記念版作者:…

カズオ・イシグロ ノーベル賞記念講演『特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー』

カズオ・イシグロの『特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー』(2018) は、2017年ノーベル賞受賞後の、記念講演を書籍化されたものです。特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー ノーベル文学賞受賞記念講演 (早川書房)作者:カズ…

『浮世の画家』"An Artist of the Floating World" カズオ・イシグロ

『浮世の画家』(An Artist of the Floating World, 1986 )は、カズオ・イシグロの2作目の長編小説。デビュー作『遠い山なみの光』に続き、戦後の日本を舞台にしています。1986年、ウィットブレッド賞を受賞。 浮世の画家〔新版〕 (ハヤカワepi文庫)作者:カ…

『戦争のすんだ夏』"The Summer after the War " カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ著『戦争のすんだ夏』(The Summer after the War,1983 )は、雑誌『Esquire 日本語版』1990年12月(36号) に掲載された短編小説です。 3年後に出版される『浮世の画家』の原型といわれています。 原文は、A Family Supperと共に収録されてい…

毒を盛られて "Getting Poisoned" Kazuo Ishiguro    

カズオ・イシグロの初期短編のうちの一つ Getting Poisoned (1981) 『中毒になる』あるいは『毒がまわる』でしょうか。Introduction 7 : stories by new writers,1981 に含まれています。和訳は今のところありません。Introduction: No. 7: Stories by New W…

『遠い山なみの光』”A Pale View of Hills“ カズオ・イシグロ

『遠い山なみの光』(A Pale View of Hills,1982)は、 カズオ・イシグロの長編デビュー作です。 1982年、王立文学協会ウィニフレッド・ホールトビー賞を受賞しました。 当初『女たちの遠い夏』(1984 ) というタイトルだったことはあまり知られていませんが、…

『ある家族の夕餉』"A Family Supper" カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ著、A Family Supper『ある家族の夕餉』あるいは『夕餉』は、雑誌『Quarto』(1980) に収録された短編小説です。デビュー作『遠い山なみの光』(1982) の約1年前になります。 のちに雑誌『Esquire』(1990) に再録され、こちらはネット上で読…